コラム

COLUMN

第49回福岡歯科大学学会が行われました

 

 

 

2022年12月11日に福岡歯科大学で開催された

学会にて当法人の3名の先生方が訪問歯科について発表されました。

 

 

病院に行きたくても自分で行くことが難しい

 

連れていくことができない

 

病院に入院して歯医者に行けない

 

 

そのような口腔に問題を抱えたまま

歯科受診できない方が大勢いらっしゃいます。

 

また、自覚症状がないということで

歯科診察を受けていない有病高齢者も多く、

口腔管理の重要性もまだまだ認知されていないのが現状です。

 

訪問歯科の発展と口腔管理の必要性を当法人からも

発信していくことが大切であり、その方法の一つとして、

当法人がどのような診療をしているかを

外部に発信していくことが大切だと思い発表を行いました。

 

 

今回の演題は

 

  • 患者の意見に寄り添い治療を進めた症例
  • 医科歯科連携により患者満足度を向上した症例
  • 訪問診療で必要な診療道具について

 

を発表しました。

 

 

以下、それぞれの症例概要です。

 

 

 

義歯装着30年経過の訪問診療の一症例

 

医)徳治会吉永歯科医院 

○山部 達也 吉永 修,永井孝信,吉永義優,田村知丈

 

【緒言】

医療の発達により、日本は世界屈指の長寿国になっている。近年訪問診療では8020を達成して口腔内にトラブルを抱えている患者が増えてきている。介助を受けることを想定した治療を行っていなかったため、口腔内の管理で問題を抱えている。今回30年前に他院で全顎的自費補綴治療を行なった患者から訪問診療の依頼があり様々な制約があるなかで患者のQOL向上に貢献できたので報告する。

 

【症例】

患者:89歳。主訴:右上前歯の動揺。既往歴:乳がん術後、間質性肺炎、脳腫瘍、高血圧症、骨粗鬆症など。服薬:レザルタス配合錠、トアラセット配合錠、マイスリー錠、カロナール。介護度:要支援2。食事形態:普通食。現病歴:1年前、転倒時前歯部強打。動揺を自覚していたが痛みもなく放置。最近、#11,#12,#13番の動揺が著しくなり食事に支障をきたし当院訪問診療依頼。

歯科的既往歴:30年前に熊本市内の歯科医院にて全顎的自費補綴治療を行っており、その際作成したアタッチメントを応用したゴールド部分床義歯は重くて15年ほど前から使用していない。口腔内所見:全顎的に歯肉の著しい退縮を認め、露出した歯根にプラークが多量に付着。主訴である#11,#12,#13番は咬合時、フレアアウト。右下にはサイナストラクトを認める。両側上下臼歯部欠損で前歯部のみ咬合しており、バーティカルストップがない。上下顎の咬合平面が不揃いでありこのまま義歯を作製しても臼歯では咬合できない。

X-ray所見及び歯周検査:全顎的に骨吸収を認める。#11,#12,#13番は動揺度3度を認め、下顎の残存歯は全て動揺度1度。下顎の補綴は全て連冠のため動揺度は軽度で落ち着いている。

 

【問題点及び考慮する点】

問題なく残存できる歯牙は2歯のみで、その他12歯は抜歯が必要であるが患者は自覚症状のある#11,#12,#13番以外は抜歯を望んでいない。また残存小臼歯が咬合しておらず15年間義歯を使用していないが現在普通食が摂取できているため食事に困っていない。

 

【治療方針】

患者は89歳と高齢であるため、治療による負担をできる限り減らすことを第一に考え、現在食事もできているため、主訴である#11,#12,#13番の抜歯を行い上顎のみの義歯を作製することにした。今後下顎総義歯を作製する可能性を想定しカンペル平面と平行に臼歯まで配列し、残存歯牙への負担を最小限にするためにレストを設置せず粘膜負担で行う。

 

【結果】

レジン床と単純鈎で作製したため義歯使用可能となり(レジンによる軽量化、単純鈎で鈎歯の負担軽減)治療後も治療前と同じように食事ができている。今回治療しなかった部位は現在も自覚症状は出ておらず、患者は上顎前歯が揃い審美的に満足している。

上顎義歯は不快感が強く口蓋を覆えず馬蹄形となった。今後総義歯となったとき使用が難しいことが予想される。

 

【考察】

この患者は、口腔内に多くの問題を残したまま治療を終了した。患者は89歳と高齢で、様々な全身疾患を抱え小康状態を維持している。訪問歯科診療は10年後も問題が出現しないようにするのではなく、早期に食事ができるようにし、栄養をつけることを第一に考えることが重要である。

その点で、私たちは患者のニーズに応え、QOLの向上に貢献できたと自負している。

 これからの歯科治療では、外来診療においても患者が介助されることを想定した治療を考えることが必要である。

 

 

 

訪問診療において医科歯科連携によって患者のQOLに寄与し得た2症例

 

医)徳治会吉永歯科医院 

○田村知丈、吉永義優、山部達也、永井孝信、吉永修

 

【緒言】

超高齢社会に突入した昨今、訪問歯科診療への世の中の需要は高まる一方である。

しかしながら、未だ訪問歯科診療の需要に対し供給が追い付いていない。

その要因の一つとして、訪問歯科診療を受診する患者は必ず全身的な基礎疾患を有しており、医科歯科連携体制の確立が必須でありながら、その連携体制の確立が困難であることが挙げられる。

今回、当院で行っている訪問歯科診療において、医科主治医と連携を行うことで治療し得た症例を経験したので報告する。

 

【結果】

 1.症例目の患者は術後6カ月に亡くなってしまったが、主訴であった歯肉の腫脹と食片圧入が大きく減ったことに大変満足していた。このことから、短い期間ではあるが患者のQOLに寄与できた。

 2.症例目に関しては、総合病院に入院中の患者であり、比較的全身管理が容易で、医科主治医が協力的であったことが治療を可能にした。本人の訴えはなかったが、もし病変を放置していた場合、さらなる進展により、大きく歯槽骨あるいは顎骨を失うことにつながり、結果的にQOLの維持に寄与できた。

 

【まとめ】

訪問歯科診療の需要は今後も高まっていく。

 しかし、患者数が増加することで様々な症例に対応が求められ、その際、歯科だけでは対応が困難な場合も生じてくる。

 そういった場合に、医科歯科連携の体制が必須となる。

 1つの病を診るのではなく、1人の患者を診るために、医科と歯科の垣根を超え、訪問診療を通して地域に貢献していくことが、今後必要とされる訪問歯科診療であると考える。

 

 

 

 

 

義当院のデータの蓄積から考える訪問歯科の診療器具の取捨についての考察

 

医)徳治会吉永歯科医院 

豊田馨大

 

【目的】

訪問診療では、必要な器具はあらかじめ準備して持って移動しなければならない。当法人は、20年近く訪問診療を行なっており、3つの病院で訪問診療を行っている。それぞれの院で工夫して器具を揃えてきたが、準備している器具を比較してみると大きな違いがある。準備道具の最適化を図るため3病院の診療データを元に訪問診療で必要な道具について考察した。

 

【背景】

吉永歯科は最も規模が大きく、1日の治療班は4から5班あり、その他にケア班が5班、1日の患者数は約100人、訪問先の施設は108施設。宇城市の人口は5,9万人で65歳以上の人口は2万人。

松下歯科は治療班、ケア班ともに1〜2班、1日の患者数は約40人、訪問先の施設は40である。八代市の人口は12.8万人と最も多く、65歳以上は4.2万人。

長野歯科は1日3〜4班が出ているが、ケアの衛生士も一緒に約4人で回り、1日の患者数は約80人、施設数は58施設。市の人口は6.3万人で65歳以上は1.5万人。

 

【現状】

準備道具としては、吉永歯科は義歯関連の器具を中心に揃えている。その他は抜歯の器具など、保存条件が厳しくないものを持ち歩いている。松下歯科も同様に、義歯関連の道具を揃えており、その他の器具は必要に応じて準備している。長野歯科は、外来から持っていける器具は急患や予定外の事態に対応するために、全て揃えて持ち出している。

 

【方法】

3院の準備している器具の違いから診療内容に違いがあるのかを調べ、2021年度の保険診療の点数が多い順にまとめて、その診療に必要な器具等を考察する。

 

【結果】

院の規模や市の状況は異なるが器具を用意しないといけない項目の上位は「口腔ケア」と「義歯関連」が合わせて3割を占めていた。院ごとに診療行為の頻度に大きな違いはなかった。

最低限必要な器具は、義歯調整、レントゲン、抜歯道具と結論づけた。

 

【まとめ】

歯科治療は専用の器具がないとできないことが多いため、想定外の事態に対処できるように色々なものを準備し揃えたくなる。しかし、条件の異なる歯科医院でも、訪問診療の大半は義歯調整と口腔ケアであるため、その準備道具があれば問題ない。その他の道具に関しては、外来と同じように予定を立てて取り組むので、次回何が必要になるか事前に分かるため全ての器具を揃えていく必要はない。例外的に動揺が著しい歯の抜歯や急性の疼痛を訴える急患対応があるが、それもレントゲンと抜歯道具を用意していれば十分である。あとは、訪問している地域の診療傾向に合わせて必要な器具を揃えれば十分であると考えられる。